34、経済的な利益の供与
【問】
法人の役員に与えた経済的利益(例:会社の物品)は給与になると聞きました。このような場合、月々の報酬ですか、それとも賞与ですか。
【答】
お尋ねの内容は、経理実務学習の役員報酬勘定で税法上の取り扱いを掲載していますが、その内容を表にしてみましたので参考にしてください。
経済的な利益供与の内容と額については、経済的な利益が定期の給与(報酬)になるか、臨時の賞与となるのか の判断について、賞与となる場合には、損金算入されません。報酬の場合には、月々の報酬と経済的利益の額を加算した金額が、過大支給の報酬にならないかを判断しなければなりません。過大報酬に該当しなければ損金算入されます。また、報酬または賞与のどちらになってもその該当する役員の給与所得ですから、源泉徴収洩れのないように注意してください。
下記に示した経済的な利益の額を、当該法人がその役員の給与として経理しなかった場合には、給与として取り扱わなくてもよいことになっています。ただし、それが所得税法上経済的な利益として課税されないものである場合です。
経済的な利益供与の内容 |
経済的な利益の額 |
報酬と賞与の区分 |
(1)法人の物品、資産の無償贈与 |
その贈与価額 |
その額が毎月おおむね一定しているものは、報酬 |
(2)法人の資産を低い価額で譲渡 |
その資産の価額と譲渡価額の差額 |
(3)役員から高い価額で資産購入 |
購入価額とその資産の価額の差額 |
賞与 |
(4)役員に対して有する債権放棄または債務免除 |
その放棄または免除した金額 |
(5)役員から債務を無償で引き受け |
引き受けた債務金額 |
(6)居住用資産の無償または低額貸与 |
通常の賃貸料と実際徴収した賃貸料との差額 |
報酬 |
(7)金銭の無利息または低利率での貸付 |
通常の利息と実際徴収した利息との差額 |
(8)、(6)(7)以外の用役の提供を、無償または低額でした場合 |
通常の対価と実際徴収した対価の差額 |
その金額が毎月おおむね一定しているものは報酬 |
(9)法人の業務のために使用したことが明らかでないもの |
その金額 |
毎月定額支給されるものは報酬 |
(10)役員のために個人的費用を負担した場合 |
その金額 |
毎月負担する住宅の光熱費、家事使用人(お手伝いさん)等の給与で過大報酬にならない場合には、報酬 |
(11)役員の負担すべき社交団体の会費等 |
その金額 |
経常的に負担するものは、報酬 |
(12)役員を被保険者および保険金受取人とする生命保険料 |
その保険料に相当する金額 |
35、法人が役員に金銭等を貸し付けた場合の取り扱い
【問】
法人が役員に対して金銭等を貸し付けた場合、どの程度の利息を徴収しなければなりませんか。
【答】
法人が役員に対して貸し付けた金銭等の利息相当額については、下記のように取り扱うことになっています。
(1)当該金銭が使用者(法人)において他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率によります。
(2)その他の場合には、貸付を行った日の属する年の前年の11月30日を経過する時におけるいわゆる公定歩合に年4%の利率を加算した利率(その利率が0,1%未満の端数があるときは、これを切り捨てる)により評価します。
(注)、公定歩合 (日本銀行法第15条第1項第1号の規定により定められる商業手形の基準割引率)
また、次のような場合には、無利息貸付であっても課税されません。
(1)災害、疾病等により臨時的に多額な生活資金を要することとなった者に対して貸し付ける金銭で、その返済に要する期間として合理的と認められる期間内に受ける経済的利益
(2)貸し付けた金額につき、使用者における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付金を定め、これによって利息を徴収している場合に生じる経済的利益
(3) (1)および(2)の貸付金以外の貸付金につき受ける経済的利益で、その年における利益の合計額が5,000円以下のもの
36、役員報酬を減額した場合の税法上の取り扱い
【問】
役員の報酬を、今月から一年間10%減額することにしました。税法上の取り扱いについて説明してください。
【答】
税法上、定期の給与とは、あらかじめ定められた支給基準に基づいて、月以下の期間を単位にして継続して支給される給与と定めています。そして、役員の給与について定期の給与は報酬、臨時的なものは賞与と規定しています。よって、役員賞与に該当する場合には、損金算入されないことになります。
会社の業績に応じて役員報酬を減額することは、よくあることですから、支給基準(今月から一年間10%減額すること)もあり減額したあとの報酬は継続して支給されるものですから税法上は問題ないと判断できます。また、役員によって支給額の減額を変えてもその地位によって判断すればよいものです。例えば、代表取締役は30%減額、専務は20%減額、平取締役は10%というように減額率を定めてもよいわけです。ただし、月によって支給額が変わったり、資金繰りの都合で支給されなかったり、と支給基準が月によってまちまちになりますと、定期の給与(報酬)に該当しなくなります。減額後は、支給基準に継続性と合理性が求められます。
37、減額した役員報酬を後日に一括して支給した場合の取り扱い
【問】
役員報酬の減額を役員会で決定しましたが、会社の業績によって1年ないし2年後に減額前の報酬に戻す場合、既往の減額分を一括して支給することができますか。
【答】
役員報酬のについて、税法上は、定期の給与は報酬、臨時的なものは賞与と規定していますので、既往の減額分について一括して支給する場合は、臨時的な給与と判断され、役員報酬として損金経理できないと考えます。役員報酬に関して既往の減額分を遡って支給する場合で認められるとケースとしては、株主総会で期首に遡って役員報酬の増額決議が行われ、2か月程度の差額を一括支給する場合は、認められると考えます。会社の業績によって差額給与を一括支給する行為は、法人の所得操作を行う行為と判断できます。通常は、株主総会の決議により利益処分計算書で支給額を決めるものと考えます。よって、減額分を増額する決議をした以後の報酬の支給額は、過大報酬と判断されない場合には、全部損金算入されますが、一括支給分の報酬は、臨時的な給与(役員賞与)で処理しなければならないので、注意してください。
38、法人成りした場合、税務署に提出しなければならない届出書について
【問】
法人成りした場合、税務署に提出しなければならない届出書について説明してください。
【答】
法人設立届出書、 給与支払事務所等の開設届出書 です。また、設立後の各事業年度の法人税の申告に要する必要があるものとしては、青色申告承認申請書、 棚卸資産の評価方法の届出書、 減価償却資産の償却方法の届出書、 有価証券の評価方法の届出書があります。
※法人設立届出書
◎提出期限は、設立の日以後2か月以内です。
◎添付書類、
1、定款等の写し。
2、設立の登記の登記簿謄本。法務局・出張所が電子情報処理によっている場合には、履3、歴事項全部証明書。
4、現物出資を受けたときは出資者の氏名、出資の金額および出資の目的物の明細に関する書類。
5、設立趣意書
6、設立時の貸借対照表
※給与支払事務所等の開設届出書
◎提出期限は、事務所等を解説した日から1か月以内。給与の支給人数が常に9人までのときは、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 を提出して納期の特例の適用(年2回にまとめて納付でき、納付日は、7月10日と翌年1月10日)を受けることができます。
※青色申告の承認申請書
提出期限は、設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日とのどちらか早い日の前日までに提出します。
※棚卸資産の評価方法の届出書
提出期限は、設立第1期の事業年度の確定申告書提出期限までです。
※減価償却資産の償却方法の届出書
提出期限は、設立第1期の事業年度の確定申告書提出期限までです。
※有価証券の評価方法の届出書
提出期限は、有価証券を取得した日の属する事業年度の確定申告提出期限までです。なお、これらの届出用紙は、税務署で用意されています。
39、購入した機械を、購入年度の後の年度に値引きを受けた場合
【問】
機械を1,400万円で前期の事業年度に購入しました。(この機械の期首簿価は、1,150万円)しかし、性能に欠陥や難点があるので業者と交渉し、400万円の値引きを受け、値引き額は、小切手で受け取りました。この値引き額の400万円は、どのように経理処理すればよいでしょうか。
【答】
購入後に値引きを受けた場合、帳簿価額を修正する経理処理が認められています。この修正経理は、その値引き金額を未償却残高の簿価から全部減額できません。下記に説明します計算式に基づいて計算した金額によります。そして、その値引きのあった日の属する事業年度で減額経理処理を行います。
(値引き額) |
|
(帳簿価額) |
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400万円 |
× |
1,150万円
1,400万円 |
≒ |
329万円(当期に帳簿価格を減額できる金額) |
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(取得価額) |
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|
【仕訳例】
(借方) 現金 329万円 (貸方) 機械 329万円
現金 。71万円 前期損益修正益 71万円
上記の計算式は、値引き額について、前事業年度までにおいて実施した減価償却費の修正をするものです。また、この購入した機械が圧縮記帳の適用を受けているときの分母と分子の金額は、圧縮記帳後の金額で行います。
機械の取得価額は、1,000万円(1,400万円−400万円)に修正します。
40、税法上の、要した費用の意味
【問】
税法条文や通達を読むと、要した費用という言葉がよく出てきます。この要したとは、現金等の支出を伴うことをいうのですか。
【答】
この要したとは、現金主義に基づく支出を意味するのではなくて、債務確定の原則に基づき判断することを言います。よって、支払債務が確定したものは、たとえ未払いであっても要した費用となります。逆に、支払があっても役務の提供を受けない前払いについては、要した費用にならないことになります。また、工事の進み度合いに応じて債務を計上しても要した費用になりませんので、注意してください。
税法上、債務確定の原則というのは、原則として下記に記載するすべての要件に該当することを言います。
(1) 期末までに当該費用にかかる債務が成立していること
(2) 期末までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
(3) 期末までにその金額を合理的に算定することができるものであること
41、同族会社の役員で確定申告が必要な場合
【問】
同族会社の役員で確定申告が必要になる場合について説明してください。
【答】
役員が受け取る報酬や賞与は、源泉所得税が課税される給与所得です。給与所得を一つの企業から得ている場合で、給与の年収が、2,000万円以下(年末調整を行っている)であれば、給与所得と退職所得以外の所得金額が20万円以下の場合には、原則として確定申告の必要はありません。しかし、給与を得ているその同族会社から、不動産の賃貸料や会社に貸し付けている貸付金等の利息を受けている場合、その所得がたとえ20万円以下であっても確定申告が必要になります。役員の親族やその役員の親族であった人も同じです。なお、役員で会社からの給与年収入が、2,000万円を超える人は、年末調整を行っていないので、他に所得がなくても確定申告が必要です。
(注)同族会社の役員については、法人税法に規定されている役員のことを言います。
42、役員報酬未払い分の取扱
【問】
私どもでは、給与の支払日を毎月20日としています。(計算期間は前月21日から当月20日までと規定しています。)決算に際し、21日から末日までの日数に相当する額を未払いの報酬として計上できますか。
【答】
会社と役員の関係は、委任に基づく関係です。よって、役員報酬は受任者(当該役員)が委任者(当該会社)から受け取る報酬です。受任者(役員)の委任者(会社)に対する報酬請求権は委任された事項を履行した後、期間をもって報酬を定めたときはその期間が経過した後に発生するとされています。よって、お尋ねのように給与の計算期間の定めがあっても、報酬の請求権(前月21日から当月20日までの1か月分)は、全額当月20日に生じますので、前月末日の時点では、報酬を支払う会社側では、その一部の21日から月末までの期間の報酬について債務が確定(成立)していないことになります。
21日から月末までの期間の報酬については、確定した債務となりませんので未払い計上できないことになります。
43、役員に支給する年俸、期間俸
【問】
私どもでは、非常勤役員に年2回に分けて報酬を支給することにしました。このような報酬は臨時的な給与とみなされますか。
【答】
役員に対し支給する給与を、報酬、賞与、退職給与に区分することができます。賞与は、損金不算入となり、報酬と退職給与は高額な支給額と判断されなければ損金算入されことになっています。賞与とは、臨時的な給与です。しかし、臨時的な給与でも、他に定期の給与を受けていない者に、継続して毎年所定の時期に定額を支給することが定められており、その規定に基づいて支給される場合には賞与とならないことになっています。
非常勤役員に、年俸や期間俸というかたちで報酬を年1回または2回毎年所定の時期に定額を支給する場合を報酬として損金経理できることを言います。また、毎月の定期の給与のほかに夏期と冬期に支給される給与は、たとえその支給時期や金額が一定していてもこの規定に該当しないことになります。
44、役員に対する貸付金の返済を役員の所有する資産で返済を受ける場合
【問】
役員に対する貸付金が1,500万円あります。これに対する利息は、税法上の定める相当の利息を役員から受け取っています。今度、この貸付金の返済を役員が所有している書画骨董品と貸付金を相殺しようと思います。このような経理処理の税法上の取扱について説明してください。
【答】
書画骨董品が会社の事業を遂行する上で必要かどうかですが、役員に対する貸付金と相殺するために会社が受け入れるという場合には、会社にとってそれが必要とは判断できないと考えます。受け入れる書画骨董品を会社の応接室などに展示してみても、経常的な事業活動のなかで装飾のために高価な書画骨董品を購入するかどうかには、問題があると考えます。
会社は営利を目的に活動するものですから、会社の取引は、合理性や経済性が求められるものです。よって、会社が所有する資産は、事業遂行のために必要な資産を保有すべきものと考えるものです。このように考えますと、役員の書画骨董品と役員に対する貸付金を相殺する経理処理は、税法上も認められないと判断します。ですから、今後も役員から貸付金についての相当の利息を受け取っていかなければなりません。また、役員から受け入れる資産が別荘などの資産の場合には、受け入れ後に、会社が負担した固定資産税や減価償却費は、否認されます。
法人税において、役員から無収益資産の譲り受けが否認される場合、所得税では、役員についての当該資産にかかる譲渡所得がないものとされます。当該役員が譲渡所得の申告を済ませた後に、法人税にかかる税務調査があり、譲受が否認された場合には、すでに申告した譲渡所得については法人税の更正のあった日の翌日から起算して2か月以内に更正の請求を所轄税務署に提出することができます。
45、みなし役員
【問】
みなし役員という規定が税法にあると聞きました。どのようなものですか。
【答】
法人の役員は、株主総会で選出され、そして法務局に登記をした者をいいます。取締役、監査役、理事、精算人などがそうです。これらの役員とは別に税法では、法人の経営に従事している者のうち下記に示します者も役員として取り扱うことになっています。
(1)、法人の使用人以外の者で法人の経営に従事している者、例えば、取締役でない会長、副会長等で表見的な役員と認められる者、合名会社、合資会社の業務執行社員、人格のない社団等における代表者または管理人がその例です。相談役、顧問などで法人内における地位、職務から見て、他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるものを含みます。
(2)、同族会社の使用人で、その者を役員とみなしてその経営に従事している者(使用人兼務役員に該当する者を除きます。)
上記の(2)の規定によって同族会社ではみなし役員が発生する事例が多いと考えます。また、上記(1)は同族会社でなくても適用されます。
みなし役員の規定は同族会社において経営権を握れるほどの株式を所有し、また会社の経営に従事していながら、賞与が損金算入されないとか、臨時的な報酬が認定された場合には役員賞与として取れ扱われます。このような税法上での不利を避けるために故意に役員に就任しない者がいる場合に、税法上は役員とみなすための規定がみなし役員です。
46、みなし役員の規定に出てくる 経営に従事している という意味
【問】
みなし役員の規定に出てくる 経営に従事している という意味について説明してください。
【答】
会社の役員は、取締役会が開催されれば出席し、会社の業務執行の意思決定に参画しますので、この職務が 経営に従事する職務 の代表的なものです。会社の 人(人事管理、人事政策、販売、仕入れ) もの(製造計画、設備計画) 金(資金計画、予算、決算の作成)などの決定に参画することが職務です。ですから、会社の役員は、職務として一般的に考えられる業務に従事することが、経営に従事している ことと言えます。よって、上役から命じられるままに与えられた仕事に従事している場合には、業務に自分の意志や決定事項を反映させることはありませんので、経営に従事している とは、考えられません。税法上、みなし役員にあたる人は、会社の経営方針に発言できる人です。一般的には、該当する人の社内経歴、年齢、力関係などから総合的に判断されるものです。しかし、同族会社では、力関係が大きな要素になるでしょう。例えば、社長の息子や配偶者がみなし役員として経営に従事している事例があります。
商法では、重要な業務執行決定を取締役会の権限事項としています。社長(代表取締役)に権限が集中することを抑制するために、経営に従事する職務について規定しています。
(1)重要な財産の譲受や処分、
(2)多額の借入金(借財)、
(3)支配人その他の重要な使用人の選任や解任、
(4)支店その他重要な組織の設定、変更や廃止
また、使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するという使用人兼務役員に関する規定があります。この規定は、経営に従事している とは、反対の言葉です。みなし役員と使用人兼務役員の立場は、逆の立場にあります。
同族会社の使用人 → 経営に従事している → みなし役員
役員 → 常時使用人としての職務に従事する→ 使用人兼務役員
監査役や監事の職務は、例えば、会社の場合、取締役の職務の業務監査、取締役の作成する財務諸表や計算書類の会計監査を主な職務としています。これらの職務が、経営に従事している 職務と判断するかどうかは、判断が分かれるでしょう。税法上は、監査役をみなし役員から除くという規定がありませんから、監査役にも、みなし役員の規定が適用されると考えます。例えば、前任の監査役が退任した後を受けて、その職務を社長の息子、娘や配偶者が受け継ぐ場合には、たとえ登記上の役員でなくても、みなし役員に該当すると考えます。
47、法務局に登記されていない役員は税法上では役員に該当、役員の退任により員数が減少した場合の退任した役員の取扱
【問】
法務局に登記されていない役員は税法上では役員に該当しますか。また、役員の退任により員数が減少した場合の退任した役員の取扱について説明してください。
【答】
法務局への役員変更の登記は、取締役や監査役が変更や重任したときに、本店所在地の法務局に二週間以内、支店所在地において三週間以内に登記をしなければならなことになっています。この商業登記は、一般的な善意の第三者に対する対抗要件であって、会社の設立や合併の登記のようにその登記によって効力が発生するというものではありません。役員は商業登記を行うことによって役員に就任するわけではなくて、株主総会の決議に基づいて役員に就任するものです。よって、税法上は、登記の有無に関係なく、役員に選任されたことに基づいて役員と判断されます。
役員の任期満了や退任によって取締役が退任した結果、法律や定款に定めた員数が減少した場合には、退任した役員は、新しい役員が就任するまでなお役員の権利義務を有することと規定されています。この規定は監査役も同様です。退任した当該役員に関して退任したことは商法上認めるが、会社経営を維持するために引き続き暫定的に役員としての権利義務を与えて、役員の職務を継続してもらうということです。ですから、税法上は、会社の経営に従事している者とみなして、みなし役員の規定が適用されます。
役員の死亡によって員数が減少した場合、裁判所は、利害関係のある人の請求によって一時役員の職務を行う人を選任することができます。 この規定によって選任された役員も税法上は、経営に従事している者として、みなし役員の規定が適用されます。
48、株主総会で定められる役員報酬の支給限度額は、税法上のみなし役員にも適用されるかどうかについて
【問】
株主総会で定められる役員報酬の支給限度額は、税法上のみなし役員にも適用されるでしょうか。
【答】
法人税では、定款または株主総会等の決議によって役員報酬の支給限度額を定めている会社は、その支給限度額を超えて役員報酬を支給した場合には、その超える部分の金額については、過大役員報酬となり損金算入されないことになっています。そしてこの規定は、当該限度額が定められた報酬の支給の対象となるものに限ると規定されています。
商法では、株主総会等で役員報酬の支給限度額を決議するときに、みなし役員の分を想定して決議されないと考えれば自然です。ですから、税法上も、みなし役員に支給した報酬は、役員報酬の支給限度額とは関係なく、判断すればよいことになります。
49、役員報酬の支給限度額を定めていない場合
【問】
定款の規定または株主総会等の決議に基づいて役員報酬の支給限度額をまだ定めていません。このような場合の取り扱いについて説明してください。
【答】
役員に対して支給する報酬額のうち不相当に高額な部分の金額は、法人の所得金額の計算上、損金不算入(下記の(1)と(2)のいずれか多いほうの金額)となります。
(1)役員報酬の額が、役員の職務内容、法人の収益および使用人に対する給料の支給状況、同業種同規模の法人の役員報酬支給状況等に照らして相当であると認められる金額を超える金額
(2)定款の規定または株主総会の決議等で役員報酬の支給限度額を定めている法人が支給した役員報酬の支給額が、その限度額を超える場合のその金額
上記(2)に、「役員報酬の支給限度額を定めている法人」とありますので、定款の規定または株主総会の決議によって役員報酬の支給限度額をまだ定めていない場合には、上記(2)の規定の適用はありませんので、上記(1)に基づいて不相当な高額部分の金額があるかないかを、判断すればよいことになります。
役員報酬について商法では、取締役が受くべき報酬は定款に其の額を定めざりしときは株主総会の決議を以て之を定む と規定しています。監査役の報酬も同様です。ですから役員報酬の限度額を定めないでおくことはできません。この規定は有限会社も同じです。ですから、税法上は違反にならなくても、商法上は違反になりますので、早い段階に、株主総会等の決議によって役員報酬の支給限度額を定めておく必要があります。
税法上、違反にならないのは、商法上の規定に反して報酬の支給限度額を定めていない会社を想定しているわけでないと考えます。例えば、会社の業績や会社のおかれている状況に応じて、社長の報酬が、0円ということも考えられるからです。法人のなかには役員報酬限度額の決定を強制されていないものがあることを想定していると考えられます。
50、株主総会の決議によって役員報酬の支給限度額を増額する場合
【問】
毎年の定期株主総会の決議によって役員報酬の支給限度額を増額する場合ですが、(1)増額する時期を株主総会開催の日を含む事業年度の期首まで遡ってもよいでしょうか。(例えば、3月決算の場合、総会日を5月25日とした場合にその年度の4月1日に遡ること) (2)役員報酬には、以前から使用人兼務役員の使用人としての職務に対する報酬を含まないこととしています。増額の決議に際し、上記のことを議事録等に明記する必要がありますか。
【答】
役員報酬の増額は、株主総会の決議があった日から以降に効力をもちますので、それ以前に遡って増額しても、前の支給限度額を越える部分の金額は損金算入されません。
(1)のような場合の、定時株主総会開催の日を含む事業年度の期首まで遡るような場合には、その決議に基づいて遡及して一括支給される報酬の増額分は役員報酬として取り扱われます。よってその増額分は、役員賞与とはなりません。 (2)のお尋ねのような場合、役員報酬の支給限度額を変更するごとに、変更後の支給限度額に使用人兼務役員の使用人としての職務に対する報酬は含まないことを決議して議事録等に明記すべきです。役員報酬の支給限度額の変更が決議されれば、前の決議は効力を持たなくなりますから、新たな役員報酬の支給限度額についてだけでなく、使用人兼務役員の報酬は含まない内容についても決議されるべきものと考えます。ただ単に役員報酬の支給限度額を決議しただけでは、変更後にすべての役員に支給する報酬が含まれることになります。使用人兼務役員の使用人としての職務に対する報酬が含まれることになりますので、使用人兼務役員について支給する報酬については、含まないことを議事録等に明記することが必要です。
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