67、定期預金の利息に関する税法上の取り扱い
【問】
定期預金の利息に関する税法上の取り扱いについて説明してください。
【答】
税法上は、定期預金の利息はその計算期間の経過に応じて営業外損益として益金算入されるものです。金融および保険業を営む法人以外の法人は、支払期日が1年以内の一定期日ごとに来る貸付金、預金、貯金、有価証券等の利子に関して継続して利払い期日到来基準による経理処理が認めれれています。2年定期預金の場合には、預入れ日から1年後に中間利払い日が訪れ、中間利息が支払われます。満期日には、約定の利息と中間利息の差額が支払われます。この中間利息の支払は、現金払い、他の預金口座に振り替え入金、1年定期預金証書の作成など預金者の希望する方法で行われます。そして受領すればその時点で、益金に計上します。2年定期の場合、満期日までまったく利息を計上しないとすれば、支払日が1年以内の一定期日ごとに到来する預金等の利息についてだけに認めれる利払い期日到来基準の取り扱いに適合しないことになります。よって中間利息は未収利息として益金に計上すべきものです。その未収利息の計上額は、中間利息の約定利率によって計算します。またこの中間利息は、銀行等から通知がある場合には、通知書に記入されている利息を計上します。通知書の発行によって、中間利息によって満期日までの1年定期預金証書の作成が省略されます。
期末までに利払い期日が到来している利息を法人が未収利息として益金に計上すれば、その事業年度において所得税の控除を受けることができます。利息の支払が未払いの状態ですから、源泉所得税の納付は未納と考えられます。しかし所得税の控除に関する計算において、期末までに利払い期日が到来した預金利息については、確定決算を基にして行われます。仕訳例につきましては、営業外収益の受取利息割引料勘定をご覧ください。
68、部分完成基準
【問】
部分完成基準について説明してください。
【答】
部分完成基準は、建設業において収益を認識する基準の一つですが、主に建設業における収益を認識するための基準は、工事完成基準が原則です。工事進行基準や延払い基準は、長期の工事や延払い条件付請負工事のような特別の請負仕事に対して適用される例外的な基準と考えます。収益の認識の仕方は、工事完成基準、工事進行基準、延払い基準、部分完成基準などがあります。部分完成基準は、収益の認識の仕方を工事完成基準とかえるのではなくて、より正しく工事完成基準を適用するための基準と考えます。建設業で工事完成基準を採用する場合には、完成の時期を単に建設請負契約ごとに判定しますと、契約ごとの単位のとりかた次第で実質的に完成して引渡しの済んだ建設工事の収益の計上を先に延ばすことが可能です。また一個の建設工事でもその一部分の完成引渡しの都度に工事代金を受領して益金に計上するようなものは、実質的にみれば、いくつかの工事が集まっていると考えられます。このために税法では、部分完成基準による工事の益金と損金の計上時期が下記のように規定されています。
※ 一つの契約によって、同種の建設工事を多量に請け負ったような場合で、その引渡しに応じて工事代金を収入する特約または習慣がある場合には、引渡し量に対応する工事収入とそれに対応する工事原価を、それぞれの事業年度の益金および損金に算入します。
※ 一個の建設でも、その一部が完成し引き渡したその都度に工事代金を収入する特約または、慣習がある場合には、完成引渡し部分に対応する工事収入とそれに対応する工事原価をそれぞれの事業年度の益金および損金に算入します。
69、売上割戻しの計上時期
【問】
売上割戻しの計上時期について説明してください。
【答】
売上割戻しは、例えば得意先との契約で得意先を代理店として商品販売を依頼し、その販売高に応じて、その見返りに支払う対価が、売上割戻しです。税法では、売上割戻しは、その算定基準が販売価額または販売数量によっており、契約その他の方法によって相手方に示されている場合には、販売した日の属する事業年度のおいて計上することができます。ただし、事業年度終了の日までに、売上割戻しを行うことおよびその算定基準が内部的に決定され法人がその額を未払い金に計上し、かつ、確定申告の提出期限(法人税法第75条の2の規定により確定申告書の提出期限が延長されている場合は、その延長された期限)までに相手方に通知した時は、継続適用を条件にこの経理処理が認められます。
販売促進と販売代金の回収をよくするために、代金の回収に応じて売上割戻しを支払う回収基準を用いる場合があります。この場合、算定基準が回収高なので、上記の税法の規定に該当しませんけれど、契約で算定の基礎となる期間、算定方法があらかじめ決めてあれば、期末において売上割戻しを支払う側と割戻しを受け取る相手方との間で、売上割戻し支払に関しての、未払い(債務)、未収入(債権)が確定したことになります。よって回収高に対応する売上割戻しを未払い金に計上できることになります。しかしこの場合相手方(債権者)では、当方(債務者)の期末の日を含む事業年度に、売上割戻しを未収入金に計上する必要があります。
代理店契約が無くても、上記の「ただし〜この経理処理が認められます。」の規定に該当する場合には、売上割戻しを支払う側としての当方では、未払い金に計上することが認められています。この場合相手側では、売上割戻しの額の通知を受けた日を含む事業年度において当該売上割戻しの額を益金に算入します。そして、支払側としての当方では期末に遡って未払い計上していてもこれに対応して益金算入時期を繰り上げることをしなくてもよいことになっています。
売掛代金残高に対する売上割戻しを見積もって費用計上する場合ですが、税法では、認められていません。会計学上は、費用収益対応の原則に基づき販売にかかる収益は販売時点に計上されるのでこれに対応する費用を販売時点で売上割戻しの見積もり計上をしてもよいのではと考えられます。しかし、税法上は、債務確定の原則に基づいてますので、売上割戻し引当金として計上できるような規定がありません。
70、売上割戻しを保証金等として預かった場合の計上時期
【問】
売上割戻しを保証金等として預かった場合の計上時期について説明してください。
【答】
売上割戻し額について、相手側との契約により、特約店契約の解約、災害の発生など特別な事実が発生する時とか、5年を超える一定期間まで保証金等として預かることとしているため、相手側が利益の全部または一部を実質的に享受することができないと認めれる場合には、その売上割戻し額は、現実に支払った日(その前に実質的に相手側のその利益を享受させることとした場合はその日)の属する事業年度において損金算入します。ただし、下記のような事実があるときは、相手側はその利益を実質的に享受していることとして取り扱われます。
(1)契約に基づいて取引保証金等として預かった売上割戻し金額に通常の金利をつけるとともに、その金額相当額について現実に支払っているか、または相手側から請求があれば支払うこととしていること。
(2)契約に基づいて保証金等に代えて有価証券その他の資産を提供できることとしていること。
(3)保証金等として預かっている金額が売上割戻しの金額の概ね50%以下であること。
(4)契約の基づいて売上割戻しの金額を相手側名義の預金または有価証券として保管していること。
例えば、売上割戻しの額を四分六にわけ60%を取引の保証金として預かっている場合、預かり期間にもよりますが、上記(3)の規定に該当しないことになります。よって未払いの売上割戻しの計上時にその金額が損金算入として認められるためには、その他のいずれかの規定を満たす必要があり、取引の保証金の額に通常の金利をつけ、そしてこの金利だけは支払をするというような約束と経理方法をとることが求めれます。
上記の「売上割戻し額について〜損金算入します。」の規定に基づいて売上割戻しの損金算入が認められない場合には、その相手側でも、仕入れ割戻し額を益金算入する必要はありません。
71、受取配当金の収益の計上時期
【問】
受取配当金の収益の計上時期について説明してください。
【答】
法人が他の法人から受け取る利益の配当または剰余金の分配、中間配当、証券投資信託の収益の分配、みなし配当については、原則としてその利益の配当金等が確定した日の属する事業年度の営業外収益に計上します。ただし、その利益の配当等について外国法人から受け取る場合には、当該外国法人の本店または主たる事務所の所在する国または地域の利益の配当等に関する法令に、その確定時期について規定してある場合で日本の規定と違う場合には、当該外国の法令の規定により利益の配当等が確定した日の属する事業年度の営業外収益に計上します。また、一定のものについては特例も認められています。法人が他の法人から受け取る利益の配当等の額で、配当金等の支払が通常の配当支払期間内に行われているものであって、継続して利益の配当等の支払を受けた事業年度の営業外収益に計上している場合は、この経理処理が認めれることになっています。
日本の法人税法基本通達では下記のように具体的に受取配当金等の確定時期について規定されています。
(1)利益の配当または剰余金の分配については、当該配当または分配をする法人の株主総会その他正当な権限を有する機関において当該利益の配当または剰余金の分配に関する決議のあった日
(2)中間配当ついては、当該中間配当にかかる取締役会の決議のあった日。ただし、その決議により中間配当の請求権に関しその効力発生日として定められた日があるときはその日
(3)証券投資信託の収益の分配のうち信託の開始の時からその終了の時までの間におけるものについては、当該収益の計算期間の末日とし、証券投資信託の終了または証券投資信託の一部解約による収益の分配については、当該終了または、解約のあった日
(4)みなし配当については、次に掲げる区分に応じ、それぞれに定める日
※ 株式の消却または資本の減少もしくは退社、脱退もしくは出資の減少によるものについては、これらの事実があった日
※ 合併によるものについては、合併登記の日
※ 解散による残余財産の分配によるものについては、その分配の開始の日(その分配が数回に分割してされた場合には、それぞれの分配の開始の日)
※ 利益積立金額の資本または出資への組み入れによるものについては、その組み入れに関する株主総会その他正当な権限を有する機関の決議によりその組み入れの日として定められた日(当該決議において当該日が定められなかった場合には、その決議のあった日)
※ 清算中の法人の継続または合併によるものについては、その継続または合併登記の日
国外から利子、配当等の送金が許可されない場合の収益の計上時期については、国外の者から支払を受ける貸付金の利子、利益の配当等または工業所有権等もしくはノーハウの使用料について、現地の外貨事情その他やむをえない事由によりその送金が許可されないことにより、概ね2年以上にわたりその支払を受けることができないと認められる事情がある場合には、その送金が許可される日までその当該収益について営業外収益に計上しなくてよいことになっています。この場合、その国外から利子、配当等の額(2以上の利子、配当等の額がある場合には、それぞれの額)の一部について送金が許可され、かつ、その許可された金額の合計額が当該国外からの利子、配当等の額の概ね50%以上になった時は、その残額についても当該事業年度において営業外収益に計上します。
国外からの利子、配当等の額の全部または一部を現地においての費用の支払(金銭債権以外の資産の取得を含む)に使用した場合には、その使用した日が、その使用した金額に該当する金額の送金が許可された日としてこの取り扱いが適用されます。
仕訳例につきましては、営業外収益の受取配当金勘定をご覧ください。
支払が確定した未収配当金を収益に計上した場合には、その未収配当金にかかる納付すべき源泉税は未納と考えられます。しかし、所得税控除の計算において、当該納付すべき所得税の額は、その事業年度において所得税の控除を受けることができます。
72、受取使用料等の収益の計上時期
【問】
受取使用料等の収益計上の時期について説明してください。
【答】
資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける家賃、地代その他の使用料等および工業所有権等の使用料の収益の計上時期については、下記のように取り扱われることになっています。
家賃、地代その他の使用料等については、原則として前受部分を除き契約または慣習によって支払を受けるべき日(支払期日)をもって収益計上の時期とします。ただし、契約の存否に紛争がある場合には、紛争が解決し、その支払を受ける日(受けることができる日)を収益計上時期とします。
家賃、地代その他の使用料等の額の増減について紛争が起きている場合には、契約の内容や相手方の供託金額などを考慮して合理的に見積もった金額を上記の原則に基づいて営業外収益に計上します。
工業所有権等、ノーハウの使用料については、原則として工業所有権またはノーハウを使用させたことにより使用料の額が確定した日を収益の計上時期とします。ただし、使用料の支払期日を継続的に採用している時には、その支払期日を営業外収益の計上時期とすることが認めれています。
建物の賃貸借契約時に保証金として受け取った金額のうち、建物償却費、修繕費の引当などの名目によって保証金の一部返還しない部分の金額がある場合には、その金額を返還しないこととした日の属する事業年度の益金(営業外収益)に算入します。
73、長期にわたる未払い配当金の税法上の取り扱い
【問】
長期にわたる未払い配当金についての税法上の取り扱いについて説明してください。
【答】
配当金について、その支払が確定した日から1年を経過した日までに支払がされない場合には、その1年を経過した日に支払をしたものとみなして源泉所得税を徴収して納付する必要があります。
長期未払いのため支払の免除を受ける配当金に対する源泉所得税はすでに納付済みになっていますが、税法上は株主に支払うべき税引き後の配当金の額を支払い免除として会社が免除益を受け入れしたと判断しますから、これにかかる源泉税は、過誤納金として還付を受けられませんので注意してください。また法人が、他の法人の株式を購入して所有する株式等にかかる配当ではありませんから、これにかかる所得税は、所得税控除の計算に基づく控除の適用もありません。
法人所得金額の計算上、益金不算入の対象となる受取配当金等は、法人が有する株式等に対して支払われた配当金です。この場合法人が自己株式を有していて、これに配当金が支払われた場合にも、税法上は自己株式は有価証券として他の法人の株式を有している場合と同じと判断しますので、受取配当等の益金不算入の規定の適用を受けることができます。しかし、外部の株主に対して支払う未払い配当金について、支払の免除を受けた場合には受取配当金ではなくて債務免除益となりますから、営業外収益の雑収入勘定で経理処理されるものです。よって債務免除になった未払い配当金は、受取配当等の益金不算入の規定の適用はありません。
74、固定資産と棚卸資産の区別に関する取り扱いについて
【問】
固定資産と棚卸資産の区別に関する取り扱いについて説明してください。
【答】
会計学上では、棚卸資産について下記のいずれかに該当するものをいいます。
※ 販売のために保有する財貨または用益(製品、商品)および販売を目的として現に製造中の財貨または用益 (例:仕掛品、未成工事など)
※ 財貨または用益生産のため、および販売、一般管理活動において短期間に消費されるもの (例:原材料、貯蔵品など)
貯蔵品については、 使用資産に類する物品であっても、その実体が徐々に製品に化体していくもの、耐用年数がきわめて短いものまたは取得原価が微細なものは棚卸資産である とされています。この貯蔵品を棚卸資産とするのは、 その供用前の保有高を棚卸資産とする趣旨であるが、供用中のものであっても払出し額を棚卸の方法または月割り計算の方法によって徐々に費用化していく場合には、いまだ費用化されない残高も棚卸資産を構成するものと解すべきである としています。このことは未使用のものだけでなくて、使用中ものも棚卸資産に計上されることもありうると考えられます。
税法上は、使用可能期間が1年以上で、かつ1品当たり取得価額が10万円以上であれば、減価償却資産として経理します。また、取得価額が1品当たり10万円未満であれば、事業のために使用(供した)ときに必要経費として損金算入されます。しかし経理実務上でも、使用中のものを棚卸資産として経理ことがあります。その例としては、建設業等で使用する仮設材料やテントは、工事現場に運ばれ場合、普通は、当該建設工事にかかる未成工事支出金に含められます。建設業の未成工事支出金は建設工事にかかる仕掛品です。使用してもすぐに消耗品費勘定へ振り替えないで棚卸資産として経理していることになります。しかし、当該建設工事が完成した場合、仮設材料やテントはその工事だけにおいて使用済みになりません。他の現場の工事に使用するために用います。ですから未成工事支出金のなかに含まれる仮設材料の金額はその全額を当該建設工事の工事原価とするのは合理的な経理処理とはいえません。このために税法では未成工事支出金勘定から下記に示しますいずれかの金額を仮設材料の価額として控除している時は、他の建設工事等に送る仮設材料のすべてに適用していることを条件にその計算が継続して行われる場合に認められています。
※ 当該仮設材料の取得価額から損耗等による減価の見積もり額を控除した金額
※ 上記の減価の見積もりが困難な場合には、工事の完了または、他の工事現場等へ送る時において当該仮設材料の価額に相当する金額
※ 当該仮設材料の再取得価額に適正に見積もった残存率を乗じて計算した金額
損耗等によっての減価の見積もり方法として、仮設材料の取得価額に、当該仮設材料の見積もり使用可能月数に対するその現場での実際使用月数を乗ずる計算方法があります。この方法によって建設工事用の現場事務所、労務者用宿舎、倉庫等の仮設建物で木造のものについても認めれています。
75、棚卸資産の売上原価等の計算およびその評価
【問】
棚卸資産の売上原価等の計算およびその評価の方法について説明してください。
【答】
税法では、各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入する金額(売上原価等)を算定する場合におけるその算定の基礎となる当該事業年度終了の時において有する棚卸資産の価額は、法人が棚卸資産について選んだ評価方法によって棚卸資産の期末有高を計算してよいことになっています。このことは、期末に棚卸資産の評価額を決めるにあったて、前もって決めてある評価方法で計上すればよいわけです。期末に一番近い時期において購入した価額で評価して計上すればよいことになります。この方法は期末在庫分の評価だけを行えばよい方法で最終仕入原価法と呼んでいます。
棚卸資産は他の資産と同じように、本来は、勘定科目上で受払記録を行って、期末残高を計算し、実地棚卸高と残高が一致するかどうか付き合わせることが理想です。一般的に言われる原価配分法(個別法、先入先出法、後入先出法、平均法など)を用いる方法です。これより、棚卸差損益が計算され棚卸管理についての管理能力も向上します。しかし実務上では、このような経理処理を行えない資産もありえますし、実際に行っていない法人も多いのが現状と考えます。税法は、業種や会社の規模に関係なく、すべての法人に法の規定が適用されることを前提に規定されいるため、理想的な法人の在庫管理の問題は別にして期末に実地棚卸によって個数や数量を決め、その評価を間違いなく計算してあれば、棚卸資産にかかる受払記録がなくてもよいこととされています。
76、個別法を選べる棚卸資産
【問】
個別法を選べる棚卸資産について説明してください。
【答】
棚卸資産の評価方法として原価配分法と最終仕入原価法のいずれかを用いるのが一般的です。個別法、先入先出法、後入先出法、平均法などは原価配分法による評価方法です。最終仕入原価法は期末在庫分の評価方法ですから原価配分法による評価方法ではありません。原価配分法の一つである個別法は、個個の棚卸資産についてその取得価額により評価する方法です。
税法では、棚卸資産のうち通常一つの取引によって大量に取得され、かつ、規格に応じて価額が定められているものについては個別法を選定することはできないことになっています。同じ種類の棚卸資産がたえず受け払いされる場合、個個の棚卸資産について取得価額の管理は容易ではありません。たとえできたとしても法人の恣意的判断から取得価額の高額なものから先に払い出ししていくでしょう。このように当該事業年度において利益操作が行われる可能性があります。よって税法上、製造業で、原材料、仕掛品、製品を扱う会社では、個別法によって棚卸資産を評価できないことになっています。
個別法で棚卸資産を評価できるものについては、下記のようなものが考えられます。
(1) 商品〜 取得から販売までの過程を通じて具体的に個品管理が行われているもの(商品例: 書画骨董品、宝石、など)
(2)製品、半製品、仕掛品〜 取得から販売もしくは消費まで具体的に個品管理が行われ、かつ、個別原価計算が実施されていて、その管理または個別原価計算をすることにおいて合理的なもの(例: ビルの建築、橋の建設、造船、などの個別受注に基づく生産など)
(3)専ら(2)の製造のために有している原材料
77、原価率の異なる棚卸資産に売価還元法を適用する場合
【問】
年度末に際し、原価率の異なる棚卸資産に売価還元法を適用する場合について説明してください。
【答】
売価還元法は、原価配分法の一つで、棚卸資産を評価するに際し、その原価率は全部の商品に一つの原価率(差益率)を一律に適用するわけではありません。税法では、期末棚卸資産を種類等または通常の差益の率の異なるごとに区分して計算します。種類等については、その種類の著しく異なるものを除き、通常の差益の率が概ね同じ棚卸資産はこれをその計算上の区分として売価還元法の計算を行うことができます。
棚卸資産の種類によっては、通常の差益の率が明らかに違う場合が多々あります。よって、当該事業年度中の取得価額も期中での売上高も区分して計算しておき、それぞれの差益の率(原価率)を計算して評価をすることになります。当該事業年度の売上高を区分するには、金銭登録機(レジスター)で売上高を区分(小売業など)、得意先元帳により集計するなどの手数が必要です。このように区分していけば商品の評価において相対的に高い原価率が適用されることは防げます。
78、売価還元法の原価の率
【問】
売価還元法の原価率について説明してください。
【問】
棚卸資産を評価するにあたり、取り扱い品種が多く毎期末に相当額の期末在庫を有する業種で売価還元法が用いられることが多いと考えます。このため、税法上も、売価還元法の原価率の計算式について規定されています。
期首棚卸資産の取得価額の総額 |
+ |
期中取得した棚卸資産の取得価額の総額 |
|
|
|
期末棚卸資産の通常の売価の総額 |
+ |
期中販売した棚卸資産の対価の総額 |
|
税法上の売価還元法による棚卸資産評価については、期末棚卸資産の通常の売価の総額に上記算式によって計算された原価率を乗じて行います。実務では、実地棚卸高と上記算式により求められた期末棚卸高を比較して当期末の棚卸高を経理処理することになります。またこの計算式では、当期中において棚卸資産にロスが生じた場合のその金額は、分子の中に含まれていることになりますので、原価率はその分高くなります。
会計学上の原価率の計算式は、下記のとおりです。
期首繰越商品原価 |
+ |
当期受入原価総額 |
|
期首繰越商品小売価額 |
+ |
当期受入原価総額 |
+ |
原始値入額 |
+ |
値上額 |
− |
売上取消額 |
− |
値下げ額 |
+ |
値下取消額 |
会計学上の方法をとる場合には、当期中に仕入れた商品の売価の計算(当期受入原価総額+原始値入額)に特別な手数が必要です。また、税法では、会計学上の算式は認めれていませんので棚卸資産の評価に用いることはできません。もし用いた場合には、税法の算式で計算した棚卸高との差額は、確定申告の際に、申告調整をしなければなりません。
79、売価還元法により評価額を計算する場合の「期中販売した棚卸資産の対価の総額」、「通常の売価の総額」の計算について
【問】
売価還元法により評価額を計算する場合の「期中販売した棚卸資産の対価の総額」「通常の売価の総額」の計算について説明してください。
【答】
税法上、期中販売した棚卸資産の対価の総額は、実際の販売価額によることになっていますが、期中で使用人、株主、特定の顧客等特定の者に対する販売について値引きをしていて、その者に対する販売状況が個別に管理されており、その値引きの額が明らかになってる場合は、その値引きの額をその販売価額に加算して計算することができます。このことは値引き額を分母に加算しないと、原価率が相対的に高くなりますが、期末棚卸資産の通常の売価の総額には、値引きについて考慮していないからです。そしてこの分母に加算されるべき値引きは、特定の得意先に特定した割引販売、輸出のために特定割引、割引セール、などが考えられますが、販売状況が個別に管理してあり、その割引の額が明らかにされている必要があります。よって割引セールなどを行う場合には、通常の売価と割引後の売価との差額の資料(売値の付け替えに関する資料)を明らかにして保存しておく必要があります。
期末棚卸資産の通常の売価の総額は、法人がその事業年度において販売した棚卸資産について割引きや割戻し等を行い、それを売上金額から控除しているような場合であっても、値引きや割戻し等を考慮しない販売価額の総額によることとされています。よって売価による期末棚卸時には、通常の売価によって行うことになります。
80、売価還元法により半製品、仕掛品を評価する場合で、製造過程での進行度を用いて評価する場合
【問】
売価還元法により半製品、仕掛品を評価する場合で、製造過程での進行度を用いて評価する場合について説明してください。
【答】
製造過程での進行度は、製造業者が原価計算を行わないため売価還元法によって半製品または仕掛品を評価する場合および当該棚卸資産について低価法を適用する場合の時価を正味実現可能な価額によって計算する場合に用いられます。
売価還元法によって評価する場合、半製品または仕掛品には売価がないことがありえるわけで、正味実現可能な価額を計算する場合も同じです。よって当該棚卸資産の売価は、それが完成した場合の製品の売価に進行度をかけて(乗じて)求めます。
棚卸資産が完成して製品になった場合の原価に対するすでに投下した原価の割合が、製造工程での進行度と呼ばれています。計算例として、完成して製品になった時の原価の内訳として材料費75%、加工費25%。期末現在の半製品、仕掛品についての材料は、95%が組み込まれていて、加工費の進行度が60%とします。
材料は通常、ほとんど最初の工程で投下されますから、材料組み込み割合は、加工の進行割合より高くなることを考慮しています。
材料費の進行度: 75%×95%=71,25%
加工費の進行度: 25%×60%=15%
原価に対する進行度:、71,25%+15%=86,25%
81、自社の製造する製品、仕掛品等の棚卸資産について低価法を適用する場合の時価
【問】
自社の製造する製品、仕掛品等の棚卸資産について低価法を適用する場合の時価について説明してください。
【答】
税法では、期末時においてその棚卸資産が製造等されたものと仮定した場合の製造原価の額にこれを消費しまたは販売の用に供するために直接要する費用を加算した金額と規定しています。このことは、期末現在で再取得価額に基づく原材料、労務費等によって積み上げ計算した製造原価の見積り額と考えます。しかし小規模法人では、実務上、原価計算を行わなわず製造原価報告書を作成することが多いので、積み上げ計算による製造原価の見積もりが実際、困難です。このような法人では、製品に関して、継続して期末に通常の売価から販売費および一般管理費、利益の額(利益の額の計算が困難な場合には、売価の5%とすることができます。)の見積り額の合計額を差し引いた金額を時価として計算しているときは、この経理処理が認められることになっています。当該製品にかかる半製品または仕掛品についても上記によって求めた製品の時価を基にして進行度をかけて(乗じて)求めた価額を時価としてよいことになっています。
税法では抵価法を適用する場合の時価については、再取得価額が前提となっています。しかし、売価より高い価額で評価しなければならないことが起こりえます。その原因としては、工場の操業度の低下が考えられます。このようになりますと低価法での資産評価に問題が生じますので、会計学上は、低価基準を適用する場合における時価は、期末の売価からアフター・コストを差し引いた価額で、さらに正常利益をも差し引くことがありえる、正味実現可能価額が適当であり、再調達原価を時価とする場合は、認められると記されています。しかし、税法は抵価法を適用する場合の時価は原則として再取得価額と規定していますので、正味実現可能価額の適用については再取得価額の計算が困難な小規模法人にだけ限定していると考えます。抵価法を適用する場合の時価についての考え方は、税法上は再取得価額、会計学上は正味実現可能価額と、違っていると考えます。
82、棚卸資産の評価に抵価法を選んだ場合、すべての棚卸資産について原価と時価の評価額を考慮しなければならない?
【問】
棚卸資産の評価に抵価法を選んだ場合、すべての棚卸資産について原価と時価の評価額を考慮しなければならないでしょうか?説明してください。
【答】
会社の会計方針として棚卸資産の評価基準に抵価法を採用した以上、一部の棚卸資産をピックアップして適用することは認められないと考えます。しかし会計方針の適用について、重要性の原則が考慮されますので、価格変動が激しいと思われる資産や金額的に重要な資産を一定の基準によって選び抵価基準を適用し、他の資産については時価の考慮を省略できると考えます。
会計学では、抵価基準を採用する限り、棚卸資産の全品目にわたって抵価評価を実施することを建前とするが、重要な品目を選択し、これについてのみ抵価評価を行い、また時価低落の著しい品目に限って評価切り下げを行うことも、実務の便宜として許される と記しています。
税法では、抵価法とは、期末棚卸資産をその種類、品質および型の異なるごとに区分し、その種類等の同じものについて原価と期末現在の時価とのうちいずれか低い価額を評価額とする方法をいいますと規定しています。抵価法を選んだ棚卸資産の全部について原価と期末現在の時価を考慮するには、その手間が膨大になりますから、実務では価格変動の激しいものとか期末現在の時価が明らかに低落しているものだけについて原価と時価の考慮を行っている場合が多いと考えます。税法には、特に規定がありませんので、当該棚卸資産についてすべて考慮しなくてもよいし、また評価減の計上洩れのものを後になって発見した場合でも、改めて損金算入が認められることもありません。
83、切り放し抵価法
【問】
切り放し抵価法について説明してください。
【答】
税法では、抵価法とは、期末棚卸資産をその種類、品質および型の異なるごとに区分し、その種類等の同じものについて原価と期末現在の時価とのうちいずれか低い価額を評価額とする方法いう と規定しています。原価80円の商品が期末に時価70円になった場合、70円で評価することをいいます。このときの時価は、再取得価額です。商品、製品の場合には期末に当該商品の在る場所で種類等の同じ商品、製品を通常一般的な取引方法で売買される数量を購入した場合の購入代価にその付随費用を加算した金額です。
例えば、翌期末に、上記の商品、製品の時価が75円になれば、抵価法では、原価80円、時価75円ですから、翌期末には75円で評価します。しかし、切り放し抵価法は、いったん抵価法で当期末評価額を70円で評価すれば、翌期以降はこの70円で原価とみなし、翌期末には、時価75円、原価70円となります。
また、税法には、当該事業年度の確定した決算の基礎となった棚卸資産の受け入れおよび払出しに関する帳簿に、当該事業年度後の各事業年度における棚卸資産の評価額の計算の基礎とすべきものとして、当該期末棚卸資産の当該抵価法による評価額を記載したこと という規定があります。この趣旨は、切り放し抵価法では、抵価法による評価額を翌期以降の原価とみなします。翌期繰越になった棚卸資産は、期首から受け払い記録を行う上でこの評価額を用いて記帳することになります。先入先出し法、後入先出し法、移動平均法などで評価している場合などがそうです。一方、棚卸資産の評価について継続して受け払い記録を要しない評価方法としての総平均法の場合は、翌期末のその評価額の計算は、 (期首棚卸高+当期仕入高)÷総数量 で計算します。計算式の中の期首棚卸高を実際の原価ではなく、抵価法で評価した金額に基づいて計算します。
84、小額減価償却資産を購入した事業年度で損金経理しなかった場合の取り扱い
【問】
小額減価償却資産を購入した事業年度で損金経理しなかった場合の取り扱いについて説明してください。
【答】
税法の規定によって減価償却資産として資産に計上しなければならないものは、使用可能期間が1年以上であって、かつ、取得価額が10万円以上の資産です。よって、使用可能期間が1年未満の資産は取得価額がいくら高くても、取得価額が10万円未満の資産はいくら使用可能期間が長くても、損金経理をすることを条件に事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をすることができます。
事業の用に供した日に損金算入しなかったときは、法人が減価償却資産として判断したということになり、以後の事業年度において、小額減価償却資産であることを理由に消耗品費勘定に振り替えることはできません。減価償却費の限度額に相当する金額が損金算入できることになります。
また、取得価額が20万円未満の資産については、各事業年度ごとにその全部または一部を一括して、これを3年間で償却する方法を選択できます。
85、申告調整による減価償却費の損金算入
【問】
申告調整による減価償却費の損金算入について説明してください。
【答】
法人が購入した減価償却資産を経理処理上、消耗品費勘定に計上された簿外資産について自発的にその資産を事業のように供した事業年度の確定申告書または修正申告書(更正または決定があることを予知して提出された期限後申告書または修正申告書を除きます。)において消耗品費として経理処理された金額を減価償却に関する明細書の当期償却額の欄に記載し、償却超過額の計算をして申告調整してしているときは、消耗品費として経理処理した金額は償却費として損金経理した金額に該当するものとして取り扱われることになっています。この取り扱いは、贈与によって取得した減価償却資産の取得価額の全部を、資産に計上しなかった場合も同じです。
【例】
年1回3月決算の法人で、当期事業年度の7月に購入した減価償却資産(取得価額45万円、耐用年数4年、定率法による償却率0,438)を消耗品費として経理処理していた場合:
償却限度額の計算:450,000×0,438×9/12=147,825円
償却超過額の計算:450,000−147,825=302,175円
上記の計算とその内容を定率法による減価償却資産の償却費の計算に関する明細書(別表16の2)に記載します。
次に償却超過額(302,175円)を所得の計算に関する明細書(別表4)で加算します。
翌期には、前期繰越の償却超過額302,175円から当該償却費の限度額を計算し、その金額(132,352円)を別表4にて減算(償却超過額の認容欄に記載)します。
当期償却超過額の認容額の計算:302,175×0,438=132,352円、以下、残存価額(22,500円)まで償却超過額の認容が受けられます。
86、土地、建物を一括取得した場合の取得価額の区分
【問】
土地、建物を一括取得した場合の取得価額の区分について説明してください。
【答】
土地建物を購入する場合、売買契約書上で、土地、建物の価額が区分計算がされていない場合があります。このような場合に土地、建物を区分して経理処理するには、原則として売買価額の総額から建物価額を差し引きして、土地の価額を確定するのが一般的です。この計算をした場合で、土地の価額が取引条件によって不合理な結果となった場合には、その取引が土地の購入を目的としてしている場合を除いて、客観的にそれぞれの価額を計算して、取引金額を按分するなど、合理的に計算しなければならないことになっています。客観的な基準の例としては、購入した土地の近傍の最近の売買価額を考慮して時価評価を行います。
土地建物の価額を、固定資産税の課税標準の基礎になる評価額で按分する例がありますが、この計算では、土地の評価額が一般的に低くなります。(固定資産税では、税負担調整措置によって評価額が低く設定されている場合が多いです。)逆に、建物の評価額が高くなりすぎますので、建物の減価償却費が過大になり不合理になります。
次に、相続税評価額で按分する例ですが、固定資産税の評価額よりは高く、時価に近くなりますが、適正な評価額までには至りません。
また、税法では、取得した建物を概ね1年以内に取り壊した時は、土地の取得が目的であったと判断され、建物の取り壊し時の簿価(廃材処分費用を控除します。)は、土地の取得価額に算入しなければならないことになっています。
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